HOME

万葉の植物
わた(綿)/和名:ワタ



 

万葉集 巻5−892
山上 憶良(やまのうえの おくら)
・説明:660−733? 奈良時代の官人、歌人
 風雑り   雨降る夜の  雨雑り   雪降る夜は   すべもなく
 かぜまじり あめふるよの あめまじり あめふるよるは すべもなく
 
 寒くしあれば  堅塩を   取りつづしろひ 糟湯酒   うち啜ろひて
 さむくしあれば かたしおを とりつづしろひ かすゆさけ うちすすろひて
 
 咳かひ   鼻びしびしに  しかとあらぬ 髭掻き撫でて  吾をおきて
 しはぶかひ はなびしびしに しかとあらぬ ひげかきなでて あれをおきて
 
 人はあらじと  誇ろへど  寒くしあれば  麻衾    引き被り
 ひとはあらじと ほころへど さむくしあれば あさふすま ひきかがふり
 
 布肩衣    ありのことごと 着襲へども 寒き夜すらを
 ぬのかたきぬ ありのことごと きそへども さむきよすらを
 
 妻子どもは 乞ひて泣くらむ この時は  いかにしつつか 汝が世は渡る
 めこどもは こひてなくらむ 
このときは いかにしつつか なんじがよはわたる
 我よりも  貧しき人の   父母は  飢ゑ寒からむ
 われよりも まずしきひとの ちちはは うゑこゆからむ
 天地は   広しといへど  吾が為は  狭くやなりぬる
 あめつちは ひろしといへど あがためは さくやなりぬる
 
 日月は  明しといへど  吾が為は  照りやたまはぬ
 ひつきは あかしといへど あがためは てりやたまはぬ
 
 人皆か   吾のみやしかる わくらばに 人とはあるを
 ひとみなか あのみやしかる わくらばに ひととはあるを
 
 人並に   吾も作るを   綿も無き  布肩衣の
 ひとなみに あれもつくるを わたもなき ぬのかたきぬの
 
 海松のごと 乱け垂れる   かかふのみ 肩に打ち掛け
 みるのごと わわけさがれる かかふのみ かたにうちかけ
 
 伏廬の   曲廬の内に    直土に   藁解き敷きて
 ふせいほの まげいほのうちに ひたつちに わらときしきて
 
 父母は  枕の方に    妻子どもは  足の方に
 ちちはは まくらのかたに めこどもは  あとのかたに
 
 囲み居て  憂へ吟ひ    竈には   火気吹き立てず
 かこみいて うれへさまよひ かまどには ほけふきたてず
 
 甑には   蜘蛛の巣かきて 飯炊く   ことも忘れて
 こしきには くものすかきて いひかしく こともわすれて
 
 ぬえ鳥の  のどよび居るに いとのきて 短き物を
 ぬえとりの のどよびいるに いとのきて みじかきものを
 
 端切ると  云へるが如く  笞杖執る  里長が声は
 はしきると いへるがごとく しもととる さとをさがこえは
 
 寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか 世間の道
 ねやどまで きたちよばひぬ かくばかり すべなきものか よのなかのみち
 
 歌意: 
 郡山万葉植物園 2014.5.12